人材育成コンサルタントへ聞いた社員の離職防止のための法則作りとコミュニケーション方法

新卒社員として入社してから定年退職まで終身雇用が当たり前だった以前の日本と違い、現在は終身雇用制度を採用している企業も減りました。それに比例して高くなった離職率を下げる離職防止のための取り組み方について、チーム作りのスペシャリストとして有名な人材育成コンサルタントである株式会社Gentleの中村成博氏へ聞いてみました。

中村さん

中村さん、本日はよろしくお願いいたします

よろしくお願いします!

それではさっそくですが、企業が社員やアルバイトの定着率をアップして離職防止対策へ取り組むうえで大事なポイントを教えてください。

企業が離職防止対策へ取り組むうえで大事にしたいこととしては、社員やアルバイトといった立場は関係なく、社内スタッフさんの「~したい」という気持ちを育むことがおすすめです。

「~したい」というのは具体的にどういうことでしょうか?

たとえば「この会社にもっと貢献したい」「すごく居心地がいい職場だからずっと居たい」「社長や上司のためのお役に立ちたい」といった、自分から湧き出てくる欲求を膨らましてあげることが離職防止につながります。

僕が今までやってきた中で「~しなきゃ」とか、「~せねば」だとなかなか続かないので、社員自身から「したい」っていう気持ちをどんどん育んでいくことが結果、企業の離職防止へとつながっています。

なぜ「~したい」が離職防止につながるのか具体的に教えてください。

「したい」という気持ちが育まれると、社内スタッフの自主性が増して、自分で考えて行動する機会が増えます。社内に感謝の空気、「ありがとう」という気持ちの循環が生まれてくるような職場環境へ変化してきます。

職場環境の改善に至った実例があれば教えてください。

私自身もいままで色々と試行錯誤して試してきた結果、いまでは「法則を作る」ことに注力しています。

まず、働く仲間が興味関心のあるような法則を作るんです。たとえば高校生ぐらいのアルバイトの子たちであれば、ディズニーランドの法則とか、ミッキーマウスの法則とか、若手社員でもわかりやすい名前を法則につけて「それを教えてください」「聞きたいです」という環境を作るんです。

ディズニーランドの法則とはどのようなモノですか?

ディズニーランドの法則っていうのは、ディズニーランドは行く人の9割くらいが「また来たい」「リピートしたい」と言う環境ができています。

ディズニーランドと同じように自分の会社やお店に来た社員が「うわー、今日は楽しかった。また早く明日も出社したいな」という環境が作れていたら理想ですよね。

ディズニーランドは何であんなに楽しいんだろうと考えた結果、実はディズニーランドへ遊びに行く人たちは行く前からすでに楽しむと決めてから来ているんです。

なにが起きようと楽しむって決めてるから脳が楽しもうとするんですよね。

たとえば、ディズニーランドの乗り物へ乗るのに1時間2時間待っても楽しめますよね。雨が降ったり天候が悪いと普通は「最悪」ってなるのに、「今日、人が少なくてたくさん乗り物に乗れる!」って言えちゃったりします。

おそらく日常の中だと「うわ、最悪」ってなるのにディズニーランドではそういう魔法がかかるんですよね。行く前から楽しむと決めているからこその考え方となりますね。

仕事でも学校でも、何か行動する前に自分が決めているってことに気付いたら、少し日常変わります。「それがディズニーランドの法則」だよって伝えながら楽しんで働く環境を作るんです。

なるほど、すごくわかりやすいですね、ディズニーランドの法則を作るのに至った経緯を教えていただけますか?

他の業種業界でも職場で楽しんでいる人たちや笑顔でいる人たちって、どんな共通点があるのかという視点で組織を観察した時にひらめいたんです。

ディズニーランドってなんであんなにいろんな人が来ても楽しめるんだろうか?なんでこのお店は繁盛しているだろう?と常に頭の中で試行錯誤しながら観察している中で産まれました。

ミッキーマウスの法則についても教えていただけますか?

ミッキーマウスの法則は、ミッキーマウスってどこに居ても「あっミッキーだ!」って人が集まってくるすごい人気者ですよね。何で人が集まるのかというと、それは365日24時間口角が下がらないからです。笑顔があるところに人が集まるんだよってことが僕の中での結論です。

飲食店で従業員に「笑顔が大事だから笑顔でいてね」と店長さんや上司が言ってる光景をよく見かけますが、笑顔になってねとお願いされても不自然な作り笑いの笑顔になりますよね。

確かにそうですね、ミッキーマウスの法則を思いつき、導入しようと思ったきっかけを教えてください。

マクドナルドの店長時代に「笑顔が大事」とパートやアルバイトさんに言ってはいたけど、自分自身も他の誰かから「笑顔にね」って言われると顔が引きつっていました。みんな気持ち悪い笑顔になるだけで困りました。

笑顔が大事なことはわかっているんだけど、どうやったら自然な笑顔を引きだせないかなと悩んでいました

その中で自然な笑顔が出ないかと考えて試して見た結果、ミッキーマウスの法則が産まれました。

中村さん自身が作った法則を人事の面で導入している企業はありますか?

人事担当者や採用担当者で高い役職についている方から気に入っていただき、組織化改善のひとつとしてそのまま導入していただける企業もあれば、自分たちでアレンジしながら作っていく企業もあります。

イチから自社だけの法則を作りたい場合は「どうすれば良い法則ができるのか?」といった視点からもアドバイスもさせていただいています。

法則を作るうえでのコツやステップなど何かありますか。

法則を作ろうと意識すると、色々なモノの見え方が変わり、いままで目に入らなかったようなことが目に入るようになってきます。法則を作るため意識のアンテナが立つことで「これとあれは一緒だよね」といった物事の共通項に気づくクセが自然にできてきます。

注意点としては、これも「絶対に法則を作らなきゃいけない!」では法則作り自体が辛くなります。

法則を作ることに対して厳しいノルマを課せられているわけでもないでしょうし「これって法則として名づけるとしたら何かなぁ」と楽しみながら作るのがおすすめですね。

法則につける名前は、話す相手が誰なのかによっても変わります。僕の場合はマクドナルドの店長だったことから、高校生アルバイトが多かったので、あえてディズニーランドとかミッキーマウスという法則の名前にしてます。

しかし、新卒社員や若手アルバイトといった若年者ならともかく、年齢層の高いところであれば、また違った法則名になる可能性はありますね。

法則を伝える相手が興味関心を持つような名前を作ることが大事です。

ここまで話して頂いた法則を実際に取り入れたお店や企業の中で実際にその後どう変わったのか?その後の変化についても教えてください。

ディズニーランドの法則やミッキーマウスの法則は僕が話すセミナー講演の中でもよく話しているので、そのまま取り入れていただけている会社もあります。

施策した結果、社内のコミュニケーションがよくなったり、以前よりも明らかに退職者が減ったことでいまでは法則が社内に定着化したといった人事部の声も多数頂いています。

従業員満足度(ES)改善が出来て離職率低下へもつながっていると聞いています。

※補足情報ESは(Employee Satisfaction)の略称です

同じ会社にセミナーや講演をされることもありますか?その場合、なぜ同じ会社に何度も呼ばれるのでしょうか?

おかげさまで同じ会社に呼ばれることは多いです。その理由としてセミナー受講する対象者が年々変わっているためです。

あとは、一度聞いて知っていてもできていないことだらけなので、節目で確認することの大切さを伝えています。そのことから公演内容を一度聞いた人もいま自分ができているのか再確認のため聞きに来ていただいたりします。

離職防止のためにここまでお話頂いてきた法則を導入する場合のアプローチ方法はありますか。

離職防止のための法則を導入するアプローチ方法としては、実際に新入社員が先輩社員に向けて、自分自身が楽しく働ける働き方を伝えるための研修の中でのアプローチ。

もうひとつは管理者に向けて、管理者が部下に対してどういうアプローチをしていくのかのパターンと2つあります。

どちらも大事なので、管理職が一生懸命頑張らなきゃいけないわけでもないですし、働く側も「リーダーが何とかしろよ」ではなくて、自分たちの働き方も工夫していかなきゃいけません。

管理者と部下のお互いが歩み寄って心地のいい職場を作るってことが結果、離職防止へとつながります。最善はどちらの立場からもアプローチをすることです。

部下として働いている人たち向けにもそうだし、管理職として働いている人たちにも、働くうえでのコミュニケーションは大事です。

コミュニケーションのコツについて教えていただけませんか?具体的に言うとコミュニケーションを取るうえでやって良いこと、悪いことなどですね。

コミュニケーションで一番大事なのは、これも僕が勝手に作った成語ですけど「ハートコンタクト」というのがあります。

一般的な言葉としては「アイコンタクト」が有名ですよね。相手の目を見て話す、相手の目を見て話を聞くことはみなさん学んでいます。

しかし、マクドナルドの店長時代を含め、現在までたくさんコミュニケーションを取ってきて、その中で私自身が感じたのは「アイコンタクト」はグッドではあるけど、ベストではないと感じました。

ハートコンタクトとは、ハートという言葉の通り、自分の一番大切な心臓を相手に向けて関わることを表します。いま自分に関心を向けてくれてるっていうことが相手に伝わるように考えたうえで自然に行うようになっていました。

コミュニケーションというと、話し方や聞き方といった「やり方」を学ぶことがほとんどです。本屋に行けばコミュニケーションを取るやり方、話し方のテクニックといった書籍が沢山並んでいます。

決してやり方自体を否定するわけではありませんが、僕は「やり方」の前に「在り方」を大事にしています。自分自身と大切な方に向けての在り方ですね。

今までやり方だけにこだわっていた部分があり、どういうやり方をすれば離職防止になるっていう本を読んでる方が多かったし、自分も最初の頃はそうでした。

しかし、そもそも「なんでそのやり方をしなきゃいけないのか?」とやり方以前に「在り方」を知ることが大切だと気づきました。

「実際に目の前にいる正社員やアルバイトさん達がどうすれば喜んでくれるのか?」という在り方をベースに色々な工夫をするようになったことで自分も職場環境も大きく変わりました。

そのことから大切な方に対して自分の在り方としてハートを向けることを僕は誰かとのコミュニケーションを取るうえで一番大事にしています。

離職につながりやすい業界や実際に相談されることが多い職種の共通点はありますか?

僕に相談が多い職種としてまずひとつ目はメーカーですね。常に色々な商品を生み出し続けているメーカーだけあって、商品に対するこだわりやポリシーは強いのですが、そこで働く労働者自体が人間関係に対して苦手意識を持たれているケースが多いです。

あとはIT系ですね。IT業界もパソコンと向かって仕事をする部分が得意なので最初は少人数、それこそひとりで気軽に仕事をしていたのが、業務拡大で採用するスタッフを増やした結果、人間関係トラブルへとつながることが少なくありません。

業務拡大するから人手は必要なんだけど上手くいかなくて依頼されることが多いですね。

なるほど、たしかにどちらも納得です。私としては劣悪な職場環境として介護職や保育園がメディアに取り上げられることも多いイメージがあるのですが、実際どうなのでしょうか?

介護施設や保育園に関しては、職場の人間関係トラブルというよりも労働条件の問題が多いですね。退職理由がコミュニケーションではなく「給料が安い」とか「勤務時間が長くて休日が少ない」といった部分となります。

あと、タクシー業界も多いですね。タクシー業界は役員や管理職の方々よりも、車を運転するタクシー運転手さんのほうが年齢高いことが少なくありません。定年後タクシー運転手としてお仕事されている年配者も多いですしね。

上司のほうが年齢低いことからお互いのコミュニケーションが難しいと相談を受けます。

自分よりも年配の方に向けてコミュニケーションを取るうえで何か気をつけていることはありますか?

シンプルに言うと何も変わらないですね。年齢が上とか下とかでコミュニケーションの仕方自体は一切変わらないです。

「乗務員さんの年齢が高くて他の業界とは違うから社員同士のコミュニケーションが難しくて退職率が高いです」とタクシー業界の方々が思い込んでいること自体が問題です。

人との関わり方で特別なんてことはありません。まずはその特別感を無くすことからがスタートとなりますね。

ただ、これはタクシー業界だけでなく、大体どこの業界の方でも共通して「うちの業界は特別なんで」という固定概念は持っていますね。

「ウチの会社や業界が特別だからコミュニケーションが上手くいかない」という思い込みが邪魔で社内改革がなかなか進まない場合どうすれば良いでしょうか?

過去にあった実際の事例や映像を見てもらうことで管理職の方々に気づいてもらうことですね。

「実は業界が特別と思っている部分に問題がありますよ」ということに管理職自身に気付いてもらうために僕は一生懸命伝える。それこそさっきお話したハートを向けて相手に対して一生懸命に自分の想いを伝えていきます。

「この状況になったら仕事を辞めそうだ」といった退職や転職が予兆できるサインはありますか?

働いていれば誰でも多かれ少なかれ不安や不満はあると思います。仕事をしていく中で全く不満が無い人なんて居ないと思います。

その不安や不満をどれだけ早くキャッチできるのかが大事ですね。不安ってウイルスみたいに、ほったらかしにしておくと心の中であり得ないスピードで増殖するんですよ。

あり得ないスピードで増殖した結果、不満が爆発して退職という形になるので、一緒に働いている仲間も不安をイチ早くキャッチできるかどうかが一番のポイントだと思います。

自分自身の経験上、これまで何度か話に出している「ハートコンタクト」でハートを向けていないとその不安を見逃してしまいます。

見逃した結果、不満が爆発して仕事を辞めることを決めた後からどうにかしようとしてもすでに転職先が決まっていたり、仕事自体が嫌で嫌で仕方がない状態になっていたりと手遅れなケースがほとんどです。

優秀なスタッフが辞めることに対して焦った中間管理職の方が後から「給料アップするから」「もっと休日を取っていいから」とメリットを提示しても相手からしたら「なんでそれをもっと早くしてくれなかったんだ」と、より不満を大きくして仕事を辞めることになります。

一コミュニケーション方法のひとつとしてよく出てくる飲みにケーションはどうですか?

飲みにケーションもいわゆる在り方ではなくやり方としての手段ですよね。しかし、いまの若い子たちは昔の人達に比べてお酒を飲まなくなってきています。

お酒を飲まない人、飲みたくない人を「飲みにケーションだから」「お酒の楽しみ方を教えてやる」といった形で無理やり飲み会へ連れていっても失敗します。それどころか強引すぎるとパワハラと言われかねないので注意が必要です。

大事なのはお酒を一緒に飲むことではなく、部下と一緒に過ごす時間を取ることです。

「同じ釜の飯を食う」という言葉もありますが「同じ酒を飲む」という言葉は特にありません。

わざわざお酒の力を借りなくてもランチやお茶を一緒にすることで相手に関心を向けていることは十分伝わります。共に過ごす時間を作る事自体はとても良いことですね。

コミュニケーションが上手くいっている会社では、部下と一緒の時間を共有することに対してどれぐらいの力を入れていますか。

一番多いところは、直属の上司と月一回は一緒にお茶をしたり、話をする時間を作っています。ちなみに僕がマクドナルドの店長時代のときは3ヵ月に1回は必ずマンツーマンでじっくりと話す時間を作っていましたね。

最後にまとめとして、これから離職防止へ取り組む場合、どこからスタートすれば良いかアドバイスいただけますか?

離職防止と考えた時、多くの会社が何をするかというと、まず福利厚生制度をはじめとした待遇面を改善しようとするんですよ。たとえば、給料を上げる、有給を増やす、残業時間を減らすといった部分を変えようとします。

しかし実はそれ以前にまずは心の部分が大事です。働いている人の心が満たされていないと、どれだけ給料や待遇が変わっても不安や不満が消えることはありません。

それこそIT業界などは、在宅でお仕事ができたり、利益率も高いことから他のサラリーマンより高額の年収をもらっている方もいて労働面で充実している企業も普通に多いです。

それにも関わらず有名企業であっても社員の定着率は高くないし、離職防止の相談も多いです。

以上のことからも離職率を下げるには、待遇面よりも先に「まずは社内の人達が働いていて居心地のいい環境作り」からしていきましょう。

まとめとなりますが、一番はじめのステップとしては「もっとここで働きたい」といった「~したいを育む」こと、そして「会社や上司に対してもっとお役に立ちたい」気持ちになる職場環境を作ることからスタートすることがおすすめです。

■今回取材させて頂いた方のプロフィール

株式会社Gentle代表取締役 中村成博氏
株式会社絶好調 取締役
八洲学園大学 非常勤講師
防災アトラクション ファシリテーター

日本マクドナルドで自らが考案した、従業員のモチベーションアップをはかるマネジメント手法は、本部を通じて全店に紹介された実績を持つ。

コンサルティング会社では、この考え・手法をあらゆる業種・業態においても、その効果を自ら実証。経営者・店長に広め、その実効性は評価が高く、多くの方々の支持と共感を得ている。また、成功小説家の犬飼ターボさんの『TREASURE』にも実話が紹介される。

中村氏の詳しいプロフィールや研修・公演内容は公式サイトでご確認ください。